親子喧嘩?

親子喧嘩?

犬も食えない


「......いま、なんじだ。」

「まだお母さん来てないし4時前くらいか?」

「んん、手ぇ動かせない......」

「は〜、二度寝するか」

ばっ……と勢いよく起き上がる。ヒューヒューと肩で息をして、落ち着こうとする。夢見が悪い所為で出た手の汗が、じんわりと手を覆っている札へ染み込む。

息をして、汗をかいて、少し経つと落ち着いた。

今は何時だろうかと推測をする顔と、その声は、薄暗い部屋には似合わない程に明るく、先程勢い良く起き上がった時もそういえば明るさを孕んだ顔をしていたことを思い立たせる。

手が動かせないと後ろ手に回されて、札の上から紐で巻きつけられた腕に文句を吐きながらもその声は何処か暖かく、不自然な程に明るい。

遠くに飛んでいってしまった布団は放っておいて二度寝をするかと、寝転がりかけた時に扉が開き、それと同時に大きな声と人影が飛び込んできた。

「おら!特訓するよ!刃物研いで来た!」

「ん〜......はいはい、っと!!」

「いきなり投げないでよ危ない。私今手動かせないんだから」

ここの母は朝からとても元気だ。二度寝をしようとしていた子供も、声に驚きびくりと跳ねる。そういえば、刃物を研いだといったが、どこに使うのだろうか。

びくりと跳ね、はいはいと雑な返事を返しながら立ち上がる子供に、凄い勢いで布団が飛んで行く。それと同時に手に大きな人影が持っていた筈の刃物が消えている。

そう!勘のいい方ならお気付きだろう!この母は、布団と刃物を一緒に投げることで子供を刃物に被弾させて……とか考え、布団と刃物を一緒に投げたのである!

まぁ、それは見事に避けられて、手が動かせないんだから……という文句と、ちょっと縄解いてくれないかな?という希望が出される。そう言われたら刃物が無くなったことを不審に思われない為、殺そうとしていることを悟られない為に、母は縄を解くしかなかった。

「よっし!えやー!!」

「はい遅い。」

縄を解かれ自由になった両手をがおー!と上に上げ母の方へ向かう子と、そんな子供に対して遅いと手刀を入れる母。少し漫画のようだ……てっ、と子供の頭に手刀が入ると、子はあ〜馬鹿になるやめてよ〜とか少しチョケて、ばたりと倒れる。

「ちょっと、威力強くない?頭、ぐわんぐわんする......」

きゅー......と言った漫画表現か?みたいな感じで倒れて、頭を抱える。そのまま頭を抱えた手で、頭を撫でながら文句を言う子供に対し、母は手加減した方でしょ首飛んでないし。と返す。子供の方が、首飛んでないし???えこわ。手刀で死人出るやんこわ。流石にバイオレンスがすぎひんか?とか思っていると、母は子が起きた勢いで投げ飛ばし、ついでで母も手で投げ飛ばした布団を整えに行った。

「ん〜......つかれた。」

子の方が、うつ伏せの体勢からごろんっと仰向けになり、ぼんやりと何も無い天井を見ながら呟く。そのうちに母は布団から刃物を回収していた。

「こんなんで疲れてたら術師やってけないよ〜?」

「いいよべつに......術師じゃ無いし」

子供の方が、ほっ、よ......と、少し老人のような声を出して起き上がる。パシパシと布団を叩き整える母の姿を目に写し、あー、首飛ばされてたかもしれない叩きが布団に披露されてる......などと叩かれた時の衝撃でまだ少しふわふわした頭で考えていると、母が口を開き、そんなんじゃ術師をやっていけない。と言う。子の方は何か言いたげに口を開きかけ、辞めた。多分、母の表情が怖かったから。そして、母の腕から刃物が見えたからだろう。

「あ、そうだもうすぐ朝ご飯だよ」

「ま......じかぁ。因みに今日のご飯担当は?」

「?お母さんしか無いでしょ他の人がご飯作りことあった?」

「無いね......」

母のもうすぐ朝ごはんだよという言葉に、子が少し明るさのある、絶望したような表情を見せる。

子は何かをぐるぐると考えているような感じで少し間を空けた後、今日は誰が料理するのかを聞く。母の方はその質問に何故そんなことを聞くんだ……?といった感じの表情をしながら「お母さんしか居ないでしょ」と答える。そして「他の人がご飯作ったことあった?」と質問を返す。その答えと質問に子の方は笑みを浮かべながら、「無いね……」と答えるのであった。

「はーい、ご飯。」

「食べてねまた昼前に来るから。」

「はい......頂きます。」

母が部屋にご飯を運び込む。何やら黒色で……変な煙が出て、どろどろとしているこれは何だろうか。そう思う人も居るだろうと言うかそんな人しか居ないのではないかという見た目のものを部屋の中に運び込み、「ご飯だよ」と言う。

因みに少し関係の無い話を入れるが、初手は何も警戒せずに食べた所為で三途の川を渡りかけたこいつは居る。

食べてねまた昼頃に来るからと言われたら、あの子はその料理を食べるしか無いだろう。毒の含まれた、ただでさえ不味いのにその所為で余計に不味くなってしまっている人目見ただけではどう考えても料理であると結論付けることの出来ないものを。

パクリと一口食べて咀嚼する。これまともに食べていたら耐えきれないな。とでも思ったのだろうか……その後は一気に掻き込み、ばたりと倒れて動かなくなってしまった。

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